〇若手研究者への支援(令和4年度支援)
融合理工学府先進理化学専攻 博士課程 3年 カミラ デリムラト
哺乳類の繁殖は、受精と呼ばれるプロセスで精子と卵子が組み合わさることから始まります。哺乳類の卵子は透明な層でさらに包まれています。この透明な層は透明帯と呼ばれ、受精のときに同じ種の精子を選択的に認識します。世界中の40年余にわたる研究にも関わらず、透明帯が精子を認識するしくみは解明されていません。私は、この認識のしくみをあきらかにするための研究をしており、得られた知見は将来的にはヒトの不妊治療などに応用できる可能性があります。
寄附金をいただいたおかげで一年間研究に集中でき、実験に必要な試薬なども購入でき、研究を順調に進めることができました。研究で得られた成果を日本分子生物学会大会で発表しました。また、学術論文に投稿する予定です。この機会を与えてくださった皆様に心より感謝申し上げます。これからも一生懸命努力して成果をあげて、社会に貢献をしたいと思います。
卒業後は、これまでの経験を活かし、有害動物の繁殖抑制方法の開発や、ヒト不妊の原因解明と治療法開発に貢献したいと思いますし、生殖医学に限らず、生活習慣病など他の疾患の機構解明と治療法開発にも貢献したいと思っています。
融合理工学府基幹工学専攻 博士課程 3年 王 斯睿
私は脈波をもとにした強力な機械学習手法による心機能予測について研究しています。これは、健康モニタリングやCVDs診断において臨床的な意義があるものです。臨床データベースをもとに中国の病院と協力し、機械学習手法による脈波を用いた心機能予測の研究を行い、初めて脈波による心機能予測の可能性と潜在力を明らかにしました。
また、心不全の患者さんに対しては、千葉大学医学部附属病院と共同で、臨床信号から心臓の血液供給能力を機械学習手法で評価する研究も行っています。
ご支援によって、より研究に集中できるようになり、さらに、イタリアのミラノで開催された第7回計算・数学生物医学工学国際会議(CMBE22)に参加することができました。世界各国の研究者の講演を聴き、自分の研究内容を発表しました。素晴らしい、忘れられない経験になりました。とても感謝しています。
卒業後は、循環器疾患の患者さんに対して、いかに非侵襲的に、速く、正確に心機能を検出・診断できるかの研究に専念し、医療現場と協力しながら、より多くの臨床データを収集し、技術的な最適化・改良を継続的に行っていく予定です。その技術を実際の製品に応用し、最終的には在宅健康管理製品の開発を実現し、患者さんのタイムリーな診断とリアルタイムの遠隔健康管理の実現に微力ながら貢献したいと考えています。すべての患者さんは、より良い医療、より高度な医療を受ける権利があると私は確信しています。
融合理工学府先進理化学専攻 博士課程 1年 田中 駿乃介
私は、化学反応が起こっている場所を観測して、その構造や反応機構を解明・応用することで特定の反応を高活性化させる研究をしており、特に水の電気分解を行う装置(水電解装置)の高活性化を行っています。この装置は、近年注目を浴びている”水素燃料“をクリーンに生成することができるため実用化への期待が高まっています。この反応において電解液中に特定の有機物(カフェイン等)を添加すると高活性化することが明らかとなっており、現在はこの活性化の要因を研究しています。本研究を応用することで、さらなる高活性化を示す物質の解明につながり、水素燃料がより効率的にかつ安価に生成することが可能となります。
カフェインの類似構造体は比較的高価なため、この支援がなければ、私は研究を進めることができず、将来的な研究成果も得ることができませんでした。しかし、皆様のご協力によって、研究を続けることができ、社会に貢献することができるようになりました。
今後も、より一層研究に力を注ぎ、皆様からいただいた支援に応えるように努めてまいります。改めて、ご支援いただいたことに深く感謝申し上げます。ありがとうございました。
固体上の反応ではその界面が反応場となって反応を進行させますが、反応の最中(in situ)を測定することは非常に困難です。在学中には現在行っている電極反応をin situ観測する研究や技術の開発を続け、自分の分野のみならず、固体を扱う分野全体へ貢献できる研究や技術の確立を行いたいです。
また卒業後は、これまでの研究を生かして国際的なエネルギー問題の解決に繋がる研究に貢献したいです。
園芸学研究科環境園芸学専攻 博士課程 2年 浅野 風斗
私の研究では、キノコ廃菌床や竹林などの未利用木質バイオマスをカブトムシの力を使って消費することによって得られた幼虫を飼料といったタンパク源、排泄糞を肥料源といった効果的なものに変換することを目指した応用研究並びに、カブトムシ幼虫を未利用バイオマスで効率的に育てるために必要な生育メカニズムの解明といった基礎研究に取り組んでおります。現在特定のカブトムシ幼虫腸内細菌が生育促進に関与している可能性が考えられているため、当該細菌の単離と腸管毎のより詳細な細菌叢の変化の解析に取り組んでおります。
本寄附金によって、腸内細菌叢の解析に必要な試薬が購入できたため、研究を進めて学会発表と論文投稿のために非常に有意義に活用することができました。また応用研究の面においては現在複数の企業と共同研究を実施しカブトムシ飼料開発を進めておりますが、その開発関連の資金にも活用させていただいております。私の研究は社会的にも注目されている面がありますが、学術的な知見にはまだ乏しいためそれを強固にするための段階に必要な研究資金を提供していただけた関係者の皆様に感謝申し上げます。
本研究を進行させることによって、昆虫の肥大化メカニズムを解明し、近い将来に需要が増えると推測されている昆虫利用・生産の効率化・活性化に向けて貢献していきたいです。また、得られた研究成果での事業展開も視野に入れて幅広い視点で活動できればと思います。今後もカブトムシの可能性を信じて研究を進め、SDGsに貢献し環境を支える新しい社会の一部を担う事を目標に少しずつ前進していきたいです。
医学薬学府先端医学薬学専攻 博士課程 3年 平沢 累
気管支喘息など慢性アレルギー性疾患では、肺などの組織で起こる炎症の遷延化が難治性の原因となっています。しかしながら、なぜ炎症が長く続くのかはわかっておりません。私は炎症を引き起こす免疫細胞が、血液中に循環することなく、肺などの組織に留まることが、病気の原因になるのではないかと考えております。免疫細胞が組織に残るための分子をすでに明らかにしており、その分子に対する抗体の投与が動物モデルにおける慢性気道炎症反応を改善させることがわかっています。本研究成果は、喘息のみならず、他の慢性炎症性疾患にも応用できると考えられ、新規治療法開発の基盤になります。
私の研究では、慢性炎症性疾患の病態解明と新規治療法の開発を目指しているため、動物実験や遺伝子発現の網羅的解析が必要となります。今回頂戴した寄附金を、動物実験を行うための試薬や、データ解析を行うための機器に使用させていただくことにより、本研究成果を得るための十分な質と量の実験が可能となり、大量の情報を効率的に解析することができました。この度、皆様から戴いた温かいご支援とご厚情に、深謝申し上げます。これからも、皆様への感謝の気持ちを忘れず、より一層研究に励む所存です。
現在、私は基礎医学研究を行う一方で、整形外科医として患者様の診療にも従事しております。その中で慢性関節炎の患者様に遭遇することがありますが、その発症メカニズムには不明な点が多く、根本的な治療法がありません。皆様のご支援により得られた研究成果を、今後はこうした整形外科領域の疾患に応用し、その病態解明や新規治療法の開発を目指します。特に本研究で明らかとなった免疫細胞や、それが発現する分子に対する抗体が、慢性関節炎の新規の分子標的薬として有用となりうるか、検証を行う予定です。
医学薬学府先端創薬科学専攻 博士課程 1年 金森 大誠
私はがん細胞を温めることでがんを治療する、がん温熱療法について研究しています。これは、現在は効きづらいとされている温熱療法の欠点を補い、より効率的ながん治療を確立するという臨床的な意義と、未だ全てが明らかになっていない、熱と細胞の関係を探求するという生物学的にも意義のある研究です。培養したがん細胞に熱をかけ、様々な細胞内の変化を解析することで、ミトコンドリアの性質が熱への強さを左右する可能性を明らかにしました。
さらに、熱によって細胞が死ぬ際にエネルギー産生の経路がどのように変化するのか、北海道大学と協働して研究を進めています。
寄附金をいただいたおかげで一年間研究に集中でき、実験に必要な試薬や機器の購入や、学会参加による他の研究者との議論ができました。研究で得られた成果を日本薬学会で発表できました。また、北海道大学との共同研究においても、自ら現地に出向いての議論や実験が可能となりました。この機会を与えてくださった皆様に心より感謝申し上げます。これからも一生懸命努力して成果をあげたいと思います。
今後は、がん温熱療法の研究を進め、培養細胞における研究のみではなく、マウスなどのより人に近い条件で熱をかける実験を行い、いわゆるトップジャーナルと呼ばれるような学術雑誌に投稿したいです。最終的には、ヒトに適応できるような、治療法や、そもそもがん温熱療法が可能であるかの判断基準を構築し、現在主流となりつつある個別化医療に貢献したいと考えています。
看護学研究科看護学専攻 博士課程 2年 北川 柚香
糖尿病や血流不全を原因に、足に傷ができてしまう方、その傷が悪化して切断をしなければならなくなる方が近年増加しています。足の切断は生命を脅かし、また、患者さんの生活の質(Quality of Life)を著しく低下させます。私は、足に傷ができやすい患者さんの傷予防や、悪化予防、傷ができても豊かに生活する方法に着目し、具体的には、傷ができやすい足にはどのような力がかかっているのか、靴や歩き方を変えると力のかかり方が異なるのかを検証することで、負担軽減策を見出す研究をしています。
ご支援によって、計測に使用する機器を購入することができ、「今研究室にあるものでできる研究」から「本当に知りたいことを知るための研究」に昇華させられたと感じています。また、スコットランドで開催された第44回IEEE医用生体工学国際会議(EMBC 2022)にて、研究成果を発表し、各国の医療、工学に携わる研究者とディスカッションをすることができました。学術論文の国際誌提出にあたっても、ネイティブによる英文校正が必要でしたが、ご支援によって障壁に感じず投稿に挑むことができ、私にとって初めての英語原著論文掲載が叶いました。このような機会を与えてくださった支援者の皆様に心より感謝申し上げます。
現在は、足に傷ができやすい希少疾患の方々を対象とした研究を行っています。希少疾患だからこそ、現時点でわからないことも多く、この研究を通して多くの知見を得ることが期待でき、それが患者さんの支援につなげられると信じています。さらには、該当疾患の方に限らず、普遍的な要因を見つけることで、すべての方に向けて、「足を守る」支援を実現したいと考えています。看護師として病院で働いてきた経験を活かし、研究者として患者さんのニーズを常に意識しながら、研究を拡大していきたいと思います。